1. 東京で気づいた「地方の見えにくさ」
僕は島根で生まれ育ち、今は東京で映像の仕事をしています。
両方を知るからこそ感じるのが、「地方の魅力は、実際に行かないと伝わらない」という現実です。
東京に暮らしていると、地方の情報は驚くほど入ってきません。テレビやSNSに流れてくる話題の多くは、東京や大阪といった大都市の出来事。地方発のニュースはほんの断片で、深い背景や文脈まで伝わることは滅多にないんです。だから、たとえば島根で日常的に見ていた景色や人の温かさは、東京にいる人にはほとんど想像できない。地方には「魅力がない」のではなく、「見えていない」だけなんですよね。
行政が発信する観光PR映像や広報動画も多くあります。けれど外から観ると「観光地の紹介」か「説明的な施策紹介」が中心で、心に残りにくい。映像を観終わったあと「いいな」とは思っても、それ以上の感情や行動にはつながらない。これは「見せ方」の問題だと思います。魅力そのものは確かにあるのに、伝わり方が弱い。だから「地方の価値」が埋もれてしまうんです。
2. 「説明」から「共感」へ──人を動かす映像とは
行政の広報はどうしても「説明」に寄りがちです。
「この制度が始まりました」「この場所に来てください」といった情報伝達が主目的だからです。もちろんそれ自体は大切。でも東京で映像制作に関わっていて強く思うのは、人の心を動かすのは「情報」ではなく「共感」だということです。
例えば観光PRを考えてみましょう。
有名な観光地やグルメを並べただけでは、人は「行ってみたい!」とはなりません。むしろ心が動くのは、「その土地に暮らす人が、どんな日常を大切にしているか」という物語を感じたときです。移住促進でも同じで、「自然が豊か」「子育てしやすい」という説明よりも、「そこで暮らす家族が、どんな幸せを見つけているか」を伝える方がはるかに共感を生みます。
つまり映像は、説明を超えて「共感をつくるメディア」へと変わるべきなんです。観る人が「自分もそこに関わってみたい」と思えるかどうか。それが、地方を変える映像の力だと思います。
3. 東京で学んだ「戦略」という視点
東京で仕事をしていて一番大きな学びは、映像を「戦略」として捉える視点です。
企業PRの現場では、映像は単なる制作物ではなく、広報やマーケティングの一部として位置づけられています。つまり「誰に届けるか」「どう行動してほしいか」まで設計したうえで映像をつくるのが当たり前なんです。
例えば企業の採用映像なら、ただ会社を紹介するのではなく「応募者が一歩踏み出したくなる体験」を意識して編集します。商品PRなら、スペック説明ではなく「その商品を手にしたときにどんな未来があるか」を映し出します。映像は“手段”であって“目的”ではない。その考え方が東京では徹底していると感じます。
この視点を地方行政に持ち込めば、映像は単なる記録やPRでは終わりません。観光誘致なら「来訪者を増やす」だけでなく「消費や関係人口につなげる」設計ができますし、移住促進なら「相談窓口にアクセスしてもらう」という行動を具体的に促すこともできます。地方に足りないのは“戦略的な見せ方”であり、それを加えることで大きな変化が起こせると信じています。
4. 「東京目線」と「地元目線」をつなぐこと
ここで僕が果たせる役割があると思っています。
島根で育ったからこそ分かる“地元の目線”。そして東京で映像制作を経験する中で得た“戦略的な目線”。その両方をつなげる存在であることです。
外の人に向けては「分かりやすく、興味を持ってもらえる」見せ方が必要です。でもそれだけだと地元の人の心には響きません。逆に内側に寄りすぎた表現だと、外部には伝わらない。両方のバランスを取りながら映像をつくることで、地域の内外に共感を生み出すことができる。
つまり「東京目線」と「地元目線」を掛け合わせることで、地方の映像はただの記録や説明を超えて、未来に向けた投資になる。僕はそう考えています。
5. 地方の未来を映すために
今、全国の地方が直面している課題は似ています。
人口減少、空き家問題、文化や祭りの継承。こうしたテーマは島根だけでなく、ほぼすべての地域が抱えているものです。そしてそれをどう伝えるかによって、地域の未来は大きく変わっていきます。
外から来る人にとって「分かりやすい」こと。中にいる人にとって「自分ごとに思える」こと。この両方を満たす映像は、行政施策を後押しする大きな力になります。観光誘致も、移住促進も、文化継承も──結局は「どう見せるか」にかかっているんです。
映像は単なる道具ではありません。それは地域を未来へつなぐための「投資」であり、人や文化を次世代へと残すための「手段」なんです。だからこそ、“見せ方”が変われば地方は変わる。その確信を、僕は島根と東京を行き来する中で強く持つようになりました。
6. おわりに──地方を変える“見せ方”とは
冒頭の問いに戻ります。
「地方を変えるのは何か?」──僕はその答えを“見せ方”だと思っています。
地方にはすでに価値があり、魅力があり、可能性があります。でも、それが外に伝わらなかったり、地元の人自身が誇りを持てなかったりするのは、決して「ないから」ではなく「見せ方が届いていないから」です。
説明だけの映像は記録にしかなりません。でも、共感を生む映像は人を動かし、行動を変え、未来を変えます。観光も、移住も、文化の継承も、すべて“どう見せるか”で広がり方が変わるんです。
だから僕は信じています。地方を変える力は、映像にある。そしてその鍵は“見せ方”にある。
その答えをこれからも、東京と島根、二つの視点から探し続けていきたいと思っています。