“正しく刺さる場所”にだけ効かせる戦略
地方の映像やコンテンツが、なぜ海外の人たちに強く響くのか。
これって実はとてもシンプルなようで、奥が深いテーマです。なぜなら、国内で「当たり前」とされているものが、海外の人から見れば驚きや憧れに変わることがあるからです。
逆に、日本人が「これぞインバウンド向け!」と思って用意したものが、意外と響かない場合もある。つまり、相手の文脈や感覚を踏まえたうえで「どこに、どう刺すのか」を見極めることが重要なんです。
僕自身、東京と島根という二つの異なる環境を行き来しながら活動してきたからこそ、その“差”を痛感しているし、だからこそ「地方映像は海外にこそ響く」と断言できるんです。
インバウンドが合言葉になった現場
ここ数年、地方政策や観光プロモーションの現場でよく聞く言葉があります。それが「インバウンドを取り込みましょう」という合言葉。
全国どこへ行っても、打ち合わせや会議の席で同じようなフレーズが飛び交っている。ある種の“合言葉”であり、まるで「それさえやれば地域が救われる」といった雰囲気すらあるんです。
でも、冷静に考えてみると「本当にそれが正解なのか?」という疑問が湧きます。
東京のように海外からのアクセスも情報発信の土台も整っている地域と、地方の小さな町や村では、条件がまったく違う。にもかかわらず、一律に「インバウンド!インバウンド!」と叫んでしまうと、結果的に地域資源を誤った方向に使ってしまう危険性があるんです。
つまり、インバウンドは確かに大事だけれど、万能ではない。すべての地域が同じように取り組むべきテーマではない、ということなんです。
海外の人に直球で刺さる条件
わかりやすいストーリーの力
海外の人の心を強く動かすのは、実は難解な文化や複雑な歴史ではありません。むしろ「誰でも理解できるシンプルなストーリー」なんです。
たとえば出雲大社の神話は、「神々が集う国」という言葉で説明できるほど明快ですし、石見銀山には「銀が世界経済を動かした」という壮大な物語があります。これらは短い説明でも納得感があり、見る人の想像を一気に広げる力を持っている。だからこそ、海外の人にとって直球で刺さるんです。
僕自身、撮影の現場に立っていて感じるのは、この「物語の力」が映像に映り込む瞬間です。
風景そのものが語りかけてくるような時間に出会うと、「あ、これはきっと海外の人の心に響くだろうな」と直感する。そういう場面は、どんな演出よりも強烈なインパクトを持っています。
“自国にはない非日常”の体験
もう一つ大事なのは「その国では絶対に体験できないこと」。
たとえば、たたら製鉄の迫力ある火花や、山陰の川で鮎を釣る素朴な体験。これらは日本人にとっては「まあ、昔からある風景」かもしれませんが、海外の人にとっては驚きの連続です。
日常の中に埋もれているものが、外から見ればまさに“宝物”になる。ここに気づけるかどうかが、地方観光にとっての分岐点なんだと思います。
すべての地域に効くわけではない
“なんちゃって日本文化”の限界
ただし、注意しなければならないのは「なんでもかんでもインバウンド向けにすれば良い」という発想です。
無理に作られた“なんちゃって日本文化”は、外国人にもすぐに見透かされます。
たとえば、どこにでもある忍者ショーを「伝統文化」として売り込むとか、全国チェーンの商業施設を「ここでしか体験できない」と宣伝するとか。こうしたものは、外国人にとっても日本人にとっても違和感しか残りません。
表層的に取り繕ったものは、一瞬は話題になるかもしれませんが、すぐに飽きられる。むしろ「浅いな」と見抜かれてしまう危険性すらある。
だから大切なのは「その土地にしかない本物の物語」を掘り起こし、磨き上げて伝えることなんです。
インバウンドは選択と集中がカギ
インバウンドを狙えば必ず成果が出る、という考え方は幻想です。実際には「刺さる場所にだけ正しく刺す」ことが本質。
つまり、地域によってはインバウンドに力を入れるべきだし、逆に別の戦略を取る方が成果が出る場所もある。すべてを一律に扱うのではなく、地域の特性に応じて選択と集中をしていく。これが本当に大切な考え方なんです。
東京と島根、二刀流の視点から
東京という大都市の視点でマーケットを見れば、世界的なトレンドや観光客の動きがよく見えてきます。どの国から訪れる人が増えているのか、どんなジャンルに人気があるのか。データや数値で見えるものは多い。
一方で、島根の現場に立てば、数字だけでは見えないものが見えてきます。その土地の空気感、人々の暮らし、文化の積み重ね。
たとえば古い町並みを歩くと、そこに暮らす人の呼吸や生活のリズムまでが映像に宿っていくんです。これこそが、海外の人にとっては強烈な魅力になる。
両方の視点を持っているからこそ、本当に「刺さる場所」を見極められるんです。そして、それを映像として翻訳し、世界に伝えることこそが僕の役割だと思っています。
結論──インバウンドは万能薬ではない
インバウンドは、どんな地域にでも効く“魔法の薬”ではありません。けれども、条件が合えば地域を一気に飛躍させる可能性を持っています。
大切なのは、「誰に」「どんな物語を」届けるか。この翻訳を間違えなければ、映像はただの観光PRを超えて、地域の未来を動かす力になるんです。
僕は、地方の映像にはその力があると確信しています。なぜなら、地方こそが本物の物語を持ち、それを世界に発信する余地があるからです。
だからこそ、インバウンド戦略は「全員がやるべきこと」ではなく、「本当に刺さる場所でこそ効かせるべき戦略」なんです。