物語を新しい価値へ。心を動かす映像プロモーション

NORIZO CINEMA

うちバウンドのすすめ:国内需要を動かす映像の力

“まだ行ったことのない日本”に心を動かす戦略

日本を旅するというと、つい「海外からのお客様」をどう呼び込むか──つまりインバウンドの話ばかりが注目されがちです。

けれど、冷静に考えてみると、僕たち日本人自身も「まだ行ったことのない日本」をたくさん抱えているんですよね。
東京に住んでいる人でも東北に行ったことがなかったり、九州の人でも北海道に足を運んだことがなかったり。極端に言えば、同じ県内にさえ「一度も行ったことがない」エリアが眠っていることもあります。

つまり、日本の中には、僕たち自身がまだ知らない物語や体験が山ほど埋まっている。

そこで僕は、この国内での再発見の流れを「うちバウンド」と呼びたい。インバウンドが“外からの来訪者”を意味するなら、うちバウンドは“内側にいる僕たち自身が動くこと”。

そして、このうちバウンドこそが、これからの観光戦略や地域づくりにおいて欠かせない視点になると思うんです。


インバウンドだけでは足りない

ここ数年、日本全国で「インバウンドを取り込みましょう」という声を耳にしない日はありません。確かに、観光庁のデータを見れば外国人観光客の増加は目を見張るものがありますし、経済効果も大きい。だからこそ自治体や観光団体がインバウンドを最優先に掲げるのは当然といえば当然です。

でも一方で、現場を歩いていると「外国人ばかりを意識しすぎて、日本人の目線を忘れていないか?」と思う瞬間もあるんです。

海外の人には刺さるけれど、日本人にとってはまったく魅力的に映らない観光資源やプロモーションって、意外に多い。これでは観光地としての基盤が弱くなってしまう。なぜなら、地域の観光を支えるのはまず国内の旅行者だからです。


"うちバウンド"とは何か

インバウンドの対義語として「うちバウンド」を定義すると、それは「日本国内の人々が、まだ訪れたことのない日本の地域に足を運ぶ流れ」を指します。

観光戦略というと海外ばかりに目が行きがちですが、日本人にとっても日本はまだまだ未知の場所にあふれているんです。

例えば、東京から島根へ。距離的には決して遠くないのに、訪れたことのある人は驚くほど少ない。逆に島根の人でも、首都圏や関西にまだ行ったことがない人もいる。つまり、国内には「近いのに遠い場所」「知っているのに知らない体験」が無数に眠っている。

それを可視化して、日本人自身に再発見してもらうことこそが、"うちバウンド"の使命なんです。


国内観光だからこそ響く魅力

移動のしやすさと安心感

海外旅行にはパスポートや言葉の壁、文化の違いといったハードルがあります。

でも国内旅行ならどうでしょう。新幹線やLCCで気軽に移動できるし、短い休暇でも十分に非日常を味わえる。文化や言語の壁もなく、食事や宿泊の安心感もある。

これはインバウンドにはない、うちバウンドならではの強みなんです。

共感できる“物語”

また、日本人同士だからこそ共感できる物語があります。外国人には伝わりにくい歴史のニュアンスや、暮らしに根づいた文化も、日本人同士ならすっと理解できる

例えば出雲大社の「縁結び」の話は、海外の人にとってはただの“神話”かもしれませんが、日本人にとっては生活の中に息づく信仰として親しみを持てる。

つまり、うちバウンドは「同じ文脈を共有しているからこそ深く刺さる」という特別な強みを持っているんです。


うちバウンド映像の役割

日本人の「まだ知らない」を刺激する

観光映像やプロモーション映像は、海外に向けてだけでなく、日本人の「まだ知らない日本」を掘り起こす道具にもなります。テレビやSNSでふと目にした映像が、「あ、ここ行ってみたいな」と思わせる。その多くは定番観光地ではなく、隠れた資源に光を当てた瞬間に生まれるんです。

自国再発見のきっかけをつくる

うちバウンド映像は、日本人が自分の国を再発見するきっかけをつくります。

例えば、同じ「温泉」でも、別の地域に行くと文化や風習が全然違う。食べ物も、似ているようで味付けや雰囲気が異なる。こうした「近いけど違う」を体験すると、日本の多様性に気づくんです。

映像はその魅力を直感的に伝える力を持っている。つまり、うちバウンド映像は日本人の目を“自国の新しい扉”へと導くんです。


東京と島根の二刀流視点から

僕が東京と島根を行き来する中で感じるのは、まさにこの「うちバウンド」の可能性です。

東京の人は「島根って何があるの?」と聞き、島根の人は「東京は人が多くて大変そう」と思っている。でも実際に互いの場所に足を運んでみると、その土地にしかない面白さや物語に触れられる。これは数字やデータだけでは見えてこない“現場のリアリティ”なんです。

東京の視点から見れば、日本人の旅行トレンドや消費傾向がわかります。島根の視点から見れば、地元の人さえ気づいていない地域資源が見えてきます。両方を持っているからこそ、日本人に本当に刺さる「うちバウンド映像」を翻訳できるんです。


結論──うちとそと、両輪で未来をつくる

インバウンドは外に向けて日本を発信する力。うちバウンドは内に向けて日本を再発見する力。

どちらが欠けても地域は持続的に成長できません。海外からの来訪者を惹きつける前に、日本人自身が自国を好きになり、誇りを持つことが必要なんです。

だから僕は、映像を通じて「うち」と「そと」を両輪で回すことを大切にしたいと思っています。

うちバウンドは決してインバウンドの代替ではなく、むしろ補完関係にある戦略。内と外の両方を動かすことで、初めて映像は地域の未来を動かす力になるんです。